PoCとは、新しいアイデアや技術が実現可能かを検証することです。プロジェクトの失敗リスク軽減や開発コスト削減につながるとして注目が高まっています。
- PoCって何?
- 具体的な検証項目は?
- どう進めればよいの?
本記事では上記のような疑問を解決できるよう、PoCの基礎的な部分から詳しく解説していきます。プロジェクトを成功へ導くためのPoCのコツも紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
PoCとは
そもそもPoC(Proof of Concept)とは、新しいアイデアや技術が実現可能かを検証することです。日本語では「概念実証」と訳されます。
新規事業の立ち上げや技術開発を行う前段階に実施され、PoCで期待する効果が得られた際に、本格的なプロジェクトを始動させるのが一般的な流れです。
これまで製薬業界や映画業界などの幅広い業界で活用されてきました。IT業界でPoCが必要とされる代表的なシーンとしては、「新規事業の立ち上げ時」「社内へのシステム導入時」などが挙げられます。
PoCにおける3つの検証項目
PoCの検証項目には、「実現可能性」「費用対効果」「具体性」の3つが挙げられます。3つの項目とそれぞれの概要を表にまとめました。
それぞれの検証項目についてさらに詳しくみていきましょう。
実現可能性
実現可能性の項目では、新たなアイデアが実現するのかを検証します。どれだけ魅力的なアイデアであっても実現できなければ、開発や導入にかかった時間やコストが無駄になる可能性があります。
そのため、本格的なプロジェクトを始動させる前にPoCで実現可能性を検証し、PoCで実現可能性があると判断できる場合に次のアクションへつなげていくのが一般的です。
また、実現可能性の検証は、「技術的に実現可能か」「コスト的に実現可能か」「継続的にビジネスとして成立するのか」という3つの視点から行います。
例えば、PoCで技術的にもコスト的にも実現可能性が高いと判断できても、市場規模が小さく、ビジネスとして継続性が期待できないとなれば、時間やコストを割いてまで開発する意味がありません。
技術面で実現が難しいと分かれば、外部に専門人材を発注するなどの事前の対策が可能となります。
費用対効果
費用対効果の項目では、アイデアが実現したときにどれだけの効果が得られるかを検証します。例えば、業務効率化を目的にシステム導入を検討している場合、PoCで「月あたり○時間の業務時間削減が実現可能」と分かれば、意思決定がスムーズになります。
反対にPoCで期待していた効果が得られないと分かれば、本格的にプロジェクトを進めたところで理想的な効果を得られる可能性は低いでしょう。そのため、早い段階でのプロジェクト中止の判断が可能です。
とくに新規事業におけるPoCであれば、「ビジネスが成立するのか」「継続的な運用が可能か」という事業の成功や存続に直結する部分でもあるため、費用対効果の検証は欠かせません。
具体性
具体性の検証項目では、アイデアを形にするにあたって必要なものが何かを見極めます。例えば、Webサイトの構築をする場合、「どのようなサイトデザインにするのか」「ボタンの配置はどうするのか」などを具体性の項目で検討します。
具体性を検証する際は、できる限り多くの関係者を巻き込んで検証することが大切です。
例えば、システム導入時のPoCで、実際にシステムを使用する現場の社員ではなく、経営層の意見だけを取り入れた場合、現場の社員にとっては使いにくいシステムになってしまう可能性があります。
そのため、実際に使用する社員やターゲットとなるユーザーをできる限り多く巻き込んで検証することで、精度の高いデータが得られるでしょう。
また、どれだけ具体性のアイデアを練り込んでも、実現可能性と費用対効果の項目をクリアできなければ、本格的なプロジェクトが始動しない可能性があるため、具体性は「実現可能性」「費用対効果」の2つの項目をクリアしてやっと検証されるというのが一般的です。
PoCと関連用語との違い
PoCには混同されやすいいくつかの関連用語があります。それぞれの関連用語との違いを1つずつみていきましょう。
PoCとPoBの違い
PoB(Proof of Business)とは、新規事業がビジネスとして成立するか、どれくらい持続可能かを検証することです。日本語では「ビジネス実証」と訳されます。
例を挙げると、新規事業が自社の技術で実現できるかを検証するのがPoC、新規事業が実現可能と分かったうえでビジネスとして成立するかを検証するのがPoBです。
PoCとプロトタイプの違い
プロトタイプとは、いわゆる試作品のことで、プロトタイプを改善しながら完成品へと仕上げていくイメージです。
ただし、プロトタイプは実現可能であると分かった段階で製作します。つまり、PoCを実施した結果、実現可能と判断されたサービスや技術を試験運用するために製作するのがプロトタイプです。
PoCとMVPの違い
MVP(Minimum Viable Product)とは、必要最小限の機能を持ったプロダクトのことです。通話機能のみが搭載された携帯電話をイメージすると分かりやすいでしょう。
MVPは、実際にターゲットとなるユーザーに試してもらい、集まった意見や感想をもとに製品を改善することが目的です。
PoCはアイデアや技術が実現可能かを検証し、MVPはユーザーの反応を知ってプロダクトの改善に役立てるという違いがあります。
PoCと実証実験の違い
PoCと実証実験は大きな違いがなく、同じ意味合いで使われることも珍しくありません。違いを挙げるならば、PoCと実証実験は実施する目的が異なります。
PoCは新たなアイデアや技術の実現可能性を検証することが目的です。一方の実証実験は、実際に製作した新製品を使用してみて、問題点や課題を洗い出すことが目的です。
ただし、PoCの段階でアイデアや技術の問題点・課題が浮き彫りになるケースもあるため、明確な線引きはありません。
PoCを実施するメリット・デメリット
PoCを実施するメリットとデメリットをそれぞれ詳しく解説します。
メリット①失敗リスクを軽減できる
どれだけよいアイデアや技術であっても、プロジェクトとして形にしたとき、必ずしも成功するとは限りません。
PoCを実施しないままプロジェクトを進めたのち、実現可能性がないと分かれば、それまでの開発にかかったコストは無駄になってしまいます。コストの大きさ次第では、倒産や赤字などにつながる可能性もあります。
PoCで実現可能性が低いと分かれば、早い段階でプロジェクト中止の意思決定が可能です。実現可能性を低くしている原因が判明すれば、課題をクリアしながら実現可能性を高めることもできるため、プロジェクトの失敗リスク軽減につながります。
メリット②開発工数を削減できる
新規事業の立ち上げでは想定外のトラブルが発生することも珍しくありません。その都度トラブルに対処していると、開発にかかる工数が大幅に増えてしまう可能性があります。
PoCを実施することで、プロジェクトの方向性をある程度定めることが可能です。PoCの段階で必要ない工数を把握しておけば、本格的なプロジェクトを進める際も、必要最小限の工数で済みます。
例えば、サービスに搭載する機能が増えれば増えるほど、当然開発に必要な工数も増えるでしょう。その点、PoCで実現可能性が低いもしくは必要ないと判断した機能を事前に排除しておけば、本当に必要な機能のみが残り、工数も抑えられます。
メリット③周りからの理解や注目を得られる
実現可能性が曖昧な新製品・サービスを開発しようとしても、社内からの反発が起こったり投資家からの資金調達がうまくいかなかったりする可能性があります。
しかし、PoCである程度の実現可能性を提示できれば、新製品・サービス開発に対する理解や注目を得られます。このように、PoC実施によって周りからの理解を得ることで、スムーズな開発や資金調達に役立つ点もPoCを実施するメリットのひとつです。
デメリット①検証にコストがかかる
PoCを実施するのにもコストが必要です。実施する回数が増えるほど、その分の開発コスト・人的コスト・時間的コストはかさみます。
コストをかけながら何度も検証した結果、実現可能性がないとなれば、PoCにかかったコストは無駄になってしまいます。
そのため、あらかじめPoC実施の目的を明確にしたうえで、最小限の実施回数で済むよう計画を立てることが大切です。
デメリット②情報漏えいのリスクがある
PoCを実施する際、プロトタイプやMVPを活用して実現可能性を検証します。新たなアイデア、プロトタイプやMVPに関する情報が外部に漏れれば、競合他社に先を越される可能性も考えられます。
このように、情報漏えいは莫大な損失を招きかねません。そのため、PoCを実施する際は、情報管理ルールの設定や社内のセキュリティ意識を高めるといった対策が必要です。
4ステップ!PoCを実施する手順
PoCを実施する手順を以下の4ステップに分けて解説します。
- 目的を決める
- 検証の準備をする
- 検証を実施する
- 検証結果を評価する
ステップ1|目的を決める
まずはPoCを実施する目的を決めましょう。具体的には、「なぜPoCを実施するのか」「PoCでどのようなデータを集めたいのか」「検証結果に対して次にどのようなステップへ進むのか」などの内容を具体的に洗い出していきます。
数値化できる内容であれば具体的な数値を用いて目的を定めておくことがおすすめです。
例えば、ITツールの導入で業務効率化が実現可能かをPoCで検証する際、「業務効率が上がるか」より「業務時間を○時間削減できるか」と具体的に数値化しておくと、判断基準が明確になります。
判断基準が明確だとスムーズな意思決定にもつながるため、PoCの実施目的は具体的かつできる限り数値を用いた内容にしましょう。
ステップ2|検証の準備をする
次に検証の準備を進めていきます。ステップ1で決めた目的を達成するにはどのような検証が必要となるのか、具体的な検証内容を検討しましょう。
また、検証準備にはPoCを実施する環境の構築・プロトタイプやMVPの開発・チーム編成などが必要です。
ITツール導入といった社内向けのPoCであればどの部署で実施するのか、サービス開発といった新規事業立ち上げ時のPoCであれば、実施対象者をどのように集めるのかなどを決めていきます。
検証に必要となるプロトタイプやMVP開発もこの段階で進めていきましょう。ただし、プロトタイプやMVPに多機能を搭載しようとすると、開発に時間やコストがかかるうえ、実現可能性がないという結果になった場合の損失が大きくなってしまいます。
そのため、プロトタイプやMVPには目的を達成するための必要最小限の機能のみを搭載することが大切です。
ステップ3|検証を実施する
準備が済んだら、検証に移っていきます。ステップ2で開発したプロトタイプやMVPを現場で試しましょう。このとき、実際のターゲットとなるユーザーや現場の社員をできる限り多く巻き込んで検証することが大切です。
検証対象がターゲットとまったく異なる場合や対象者に偏りがある場合、データにも偏りが生じ、精度の低い検証となってしまいます。
本番と近い環境・条件のもと検証を行い、本格的なプロジェクト開発に役立つ精度の高いデータを収集しましょう。
ステップ4|検証結果を評価する
最後に検証結果を評価していきます。ステップ1で決めた目的を達成できたか、設定した数値目標を超えているかなど、当初の目的とのギャップを洗い出していきます。
期待通りの効果が得られた場合は、本格的な開発や導入へと進みましょう。ただし、PoCで新たなアイデアや技術の実現可能性が低いという結果が出た場合、プロジェクトの中止もしくは次のPoCに必要な改善内容を検討します。
そもそもPoCをたった一度実施しただけで必要なデータがすべて揃うことはなかなかありません。評価と改善を繰り返しながらPoCを複数回行うのが一般的です。検証結果とPoCにかかるコストのバランスを見ながら、必要なデータを収集していきましょう。
PoCを成功させる3つのコツ
PoCを成功させるコツには以下の3つがあります。
- 本番に近い環境で行う
- スモールスタートを意識する
- PoCそのものを目的化しない
それぞれのコツについて1つずつ詳しくみていきましょう。
本番に近い環境で行う
PoCはできる限り本番に近い環境で実施しましょう。本番とかけ離れた環境でPoCを行っても精度の高いデータは得られません。
とくに新しいアイデアや技術を形にする場合、需要の有無を予測するためのデータが少ないため、社内の意見だけでなく、その新製品・サービスを実際に使用するユーザーの意見が必要不可欠です。
スモールスタートを意識する
PoCを実施する際はスモールスタートを意識しましょう。はじめから規模を大きくしてしまうと、失敗した際の損失が大きくなったり、得られるデータが幅広く、本当に必要なデータの見極めが難しくなったりします。
PoCは一度でなく複数回繰り返しながら必要なデータを収集するのが一般的です。大規模なPoCを一度ではなく、小規模なPoCを複数回に分けて実施するというイメージを持っておきましょう。
PoCそのものを目的化しない
PoCの検証結果は、あくまでも本格的な開発や導入へ進むか否かを決める判断材料です。PoCを実施することそのものが目的化してしまうと、収集したデータを開発や導入に役立てられなかったり、PoCの方向性を見失ったりする可能性があります。
そのため、PoCは目的を達成するための手段のひとつとして認識することが大切です。PoCの目的化を防ぐため、PoCを進めているあいだ、定期的に目的を確認するといった対策を行いましょう。
まとめ
PoCは、新たなアイデアや技術の実現可能性を検証することを意味し、新たなシステム導入や新規事業立ち上げ時に活用される機会が増えてきました。
できる限り本番に近い環境でPoCを実施すると、精度の高いデータを得ることができ、本格的なプロジェクトに役立てられます。
PoCの結果次第ではプロジェクトの方向性を変えたり中止を検討したりするなど、スムーズな意思決定につなげていきましょう。