PoC開発とは、新たなアイデアや技術の実現可能性を検証することです。システム開発の効率化や開発時のコスト削減に役立つとして、PoCに取り組む企業が増えています。
「PoC開発って何?」「どうやって進めればよいの?」といった悩みを抱える方に向けて、本記事ではPoC開発の意味やメリット・デメリット、実施手順や成功させるコツまで詳しく解説します。
PoC開発とは
そもそもPoC(Proof of Concept)とは、新たなアイデアや技術が実現するかどうか、そのアイデアや技術によってどのような効果が得られるかなどを検証することです。日本語では「概念実証」と訳され、「ピーオーシー」「ポック」などと呼ばれます。
PoCは本格的な開発の前段階に実施し、PoCで「実現可能性が高い」「十分な効果が期待できる」という結果が得られたタイミングで、本開発へと移行するのが一般的です。
ソフトウェア開発やシステム開発などを行うIT業界でよく用いられますが、決してIT業界に限られた検証方法ではありません。
例えば、映画製作には多額の資金が必要です。PoCで実現可能性を示すことができれば、「この映画制作になら出資する価値がある」と資金調達に役立てられる可能性があります。
このように、PoCは新たなアイデアや技術の実現可能性を検証することを指し、IT業界だけでなく医療業界やエンタメ業界などのさまざまな業界で活用されています。
PoCを実施するメリット・デメリット
PoCを実施するメリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
PoCのメリット
まずはPoCを実施する4つのメリットをみていきましょう。
アイデアが実現可能かを検証できる
新たなアイデアや技術が実現するか、本当に完成できるかを事前に検証できる点は、PoCを実施する最大のメリットです。
PoCを実施しないまま本開発を進めた場合の、「技術不足で開発計画が頓挫した」「計画にない軌道修正が多発する」といったリスクを回避できます。
例えば、PoCで自社に不足している技術やリソースが分かれば、事前に補填したうえで本開発に移行できるため、計画が頓挫することなく本開発を進められます。
開発にかかる工数やコストを削減できる
PoCを実施することで、開発にかかる工数やコストを削減できます。
新たなアイデアや技術を形にする際、思わぬトラブルが発生することは珍しくありません。不測のトラブルが発生した場合、対処に時間がかかったり新たなリソースを追加したりするなど、開発にかかる工数やコストが膨らんでしまいます。
開発するにあたってどのような課題が挙げられるか、リソースとして何がどのくらい必要になるのかなどを事前に把握できる点は、PoCを実施するメリットのひとつです。
「思っていたより少ない人員で実現できる」というように、予測より少ない工数・コストで済むことが分かるケースもあります。開発予算として確保していた分を広報やマーケティング費用に振り分けるといった対応も可能になります。
事前に費用対効果を予測できる
PoCを実施するメリットのひとつとして、事前に新システムの費用対効果を予測できる点が挙げられます。
PoCでは新システムの試作品をユーザーに試してもらう機会があるため、ユーザーの反応や意見をもとに、期待している効果と実際のギャップを把握できます。
期待する効果が得られるかを把握しないまま開発を進めた場合、「思ったより収益性が低くビジネスとして成立しない」「実際の効果より開発コストが上回り赤字になった」といった問題が起こりかねません。
PoCによっておおよその費用対効果を把握できれば、開発に投入できる予算の算出や売上予測に役立ちます。
円滑な意思決定につながる
PoCは円滑な意思決定にもつながります。
例えば、「新たな技術を形にするための予算を割いて欲しい」とだけ言われても、「実現するかが不安…」「莫大なコストがかかりそう…」など、開発に踏み切る判断材料があまりにも少な過ぎます。
しかし、PoCの実施によって実現可能性が高いことやおおよその予算が分かっていれば、「これなら実現できそう!」「このくらいの予算なら割ける!」と、経営層の意思決定を促すことが可能です。
外部の投資家に資金調達を依頼する際も、PoCの結果で実現可能性を示すことができれば、具体的な開発内容や期待できる効果をイメージしてもらいやすく、資金調達にも役立ちます。
PoCのデメリット
次にPoCを実施する際に考えられる2つのデメリットをみていきましょう。
情報漏えいのリスクがある
PoCは本開発の前段階に実施されるものであり、PoCの実施には必ず試作品を取り扱います。PoCの計画や試作品などの情報が本開発前に外部へ漏れてしまうと、競合他社に先を越されるなど、自社の損失につながりかねません。
そのため、PoCを行う際には情報管理に関するルールを設け、あらかじめ社員に共有しておくといった情報保護対策が必須です。
検証の規模や回数によっては余計に時間やコストがかかる
PoCは、効率的かつ最小限のコストで本開発を進めるために実施されます。しかし、大規模な検証を行ったり検証を何度も繰り返したりした場合、かえって時間やコストがかかってしまうケースがあります。
PoCを繰り返すことで膨らんだコストを回収できないとなれば、開発そのものが無駄になりかねません。
検証回数が増えるほどコストもかさむのは当然です。「PoCにかかるコストと得られる効果のバランスを考慮する」「本当に必要な検証内容を見極める」といった対策をとりましょう。
【4ステップ】PoCを実施する手順
PoCを実施する手順として、以下の4ステップを参考にしてください。
- 目的を明確にする
- 検証方法を設定する
- 本番に近い環境下で実証する
- 評価・改善を行う
それぞれの手順について1つずつ詳しく解説します。
STEP1|目的を明確にする
まずはPoCによってどのような内容を検証したいのか、どのようなデータを得たいのかなど、PoCの実施目的を明確にしましょう。
PoCを実施する目的が明確になっていないと、検証方法に迷ったり、本当に必要なデータが得られずにPoCの効果が薄れてしまったりする可能性があります。
例えば、新しいマッチングプラットフォームを構築する場合、「ターゲットとなるユーザー層」「需要の高さ」などのデータが必要です。
上記のように、開発に必要なデータが明確になっていれば、「ユーザーの属性を記録する」「一定期間内のアクティブユーザー数を記録する」といったPoCの具体的な検証方法を考えやすくなります。
PoCを実施する目的を決めると同時に、PoCで達成したい目標も設定しておくとよいでしょう。「PoCでこれだけの効果を得られたら本開発に移行しよう」という基準があれば、意思決定がよりスムーズになります。
STEP2|検証方法を設定する
次にSTEP1で定めた目的を達成するためには、どのような検証を行えばよいのか、具体的な検証方法を設定していきましょう。
目的のデータを得るために必要な検証項目・環境・コスト・人的リソースなどの洗い出しだけでなく、検証に活用するプロダクトとしてMVP(Minimum Viable Product)を用意します。
MVPとは、必要最小限の機能を搭載したプロダクトのことです。携帯電話でいうと、通話機能のみを搭載したプロダクトがMVPにあたります。
例えば、社内コミュニケーション強化を目的として、コミュニケーションツールの導入を検討している場合、はじめから有料プランを導入するのではなく、無料トライアルを活用してサービス導入でどのくらいの効果が得られるかを確認するでしょう。
上記の例でいうと、PoCにおけるMVPは無料トライアルのイメージです。PoCでも期待する効果が得られるかを確認するには、試作品(=MVP)が必要となります。MVPの反応が悪ければ本開発を行ったところで有用性はないと判断できます。
このように、MVPはPoCに欠かせません。MVPにどのような機能を搭載するかも、このプロセスで洗い出しを行いましょう。
STEP3|本番に近い環境下で実証する
PoCの準備が整ったら、実証に移りましょう。実証する際は、できる限り本番に近い環境で行うことが大切です。そうすることで、得られるデータの信用性や正確性が向上するため、PoCの効果を最大化できます。
例えば、マッチングサイトの開発を検討していて、本開発後はマルチデバイスでの利用を想定しているにもかかわらず、PoCはパソコンのみで提供してしまうと、スマホやタブレットなどの他デバイスでの利用ニーズを把握できません。
PoCはあくまでも効果検証であるものの、本開発に進むか否かを決める重要な判断材料となります。本番に近い環境下を構築したうえで、実証しましょう。
STEP4|評価・改善を行う
実証後は、検証結果をもとに評価・改善を行います。期待する効果は得られたのか、必要なデータは揃ったのかなど、当初の目的が達成できているかを評価しましょう。PoCは1度ではなく、評価をもとに改善を重ねながら複数回繰り返すことが大切です。
また、このプロセスではユーザーや投資家の反応も確認しましょう。MVPを利用してもらった感想や意見、PoCに対する投資家のリアクションなど、活用できそうなアイデアは記録しておき、次回のPoCや本開発に反映できるようデータを蓄積しておきます。
PoCを成功へ導く3つのコツ
PoCを成功へ導くコツとして以下の3点を紹介します。
- PoCそのものを目的にしない
- スモールスタートを意識する
- 検証以前のプロセスに時間やコストをかけすぎない
それぞれのコツについて詳しくみていきましょう。
PoCそのものを目的にしない
PoCは、あくまでも本開発の前にアイデアが実現可能かを確かめるために行います。「PoCを実施すること」そのものが目的になってしまうと、検証の方向性を見失ったり、データの信用性が薄れたりする可能性があります。
そのため、PoCはあくまでも最終的な目的を達成するための手段のひとつと認識しておくことが大切です。PoCを進めているあいだも、定期的にPoCの目的を再確認するよう意識しましょう。
スモールスタートを意識する
PoCではスモールスタートを意識しましょう。
例えば、PoCでは必要最小限の機能を搭載したMVPを活用しますが、MVPにもかかわらずあれもこれもと多くの機能を搭載すると、「得られた効果がどの機能によるものなのかが分からない」といった問題につながりかねません。
また、PoCの規模が大きくなるほど割かれる時間やコストも大きくなります。しかし、大規模なPoCを行ったとしても必ずしも成功するとは限りません。
PoCを行った結果、本開発は行わないと判断するケースもあることも理解し、失敗した際の損失を最小限に抑えるためにも、PoCはできる限り小規模から始めることが大切です。
実証以前のプロセスに時間やコストをかけすぎない
PoCの実施には、目的の明確化・検証内容の設定・検証項目の洗い出し・MVP開発など、あらゆるプロセスをクリアしていく必要があります。ここで重要なのが、PoCの実証以前のプロセスに、時間やコストをかけすぎないことです。
実証以前のプロセスに時間やコストをかけすぎると、本開発のスタートが遅れたり割けるコストが少なくなったりするなど、PoCが成功しても本開発に影響が出るといった問題につながりかねません。
PoCの計画策定に時間をかけたり、MVP開発にコストを割いたりすることはもちろん重要ですが、PoCでは検証結果をもとにどのような改善を行うかに焦点をあてましょう。
まとめ
PoCは、新たなアイデアの実現可能性を検証したり、サービス導入の期待効果を測ったりするのに活用されます。本開発にかかる工数やコストの削減や円滑な意思決定にもつながるため、新しいサービス開発に効果的な検証手法です。今回紹介したPoCの手順とコツを参考にしながら、ぜひPoCの効果を最大化させてください。