必要最小限の機能が搭載されたプロダクトを開発する「MVP開発」は、いち早く市場へリリースしたりユーザーの反応をみながら改善したりできることから、新規事業を立ち上げる際に実施する企業が増えてきました。
しかし、MVP開発の実施に際して事例を知りたいという方は多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではこれまでどのようなMVP開発が実施されてきたのか、具体的なサービス名とともに6つの事例を手法別で紹介します。
MVP開発の主な手法と事例6選
MVP開発といっても、具体的な手法はいくつかに分かれます。なかでもよく活用される以下4つの手法を事例とともに詳しく紹介します。
- プロトタイプ
- コンシェルジュ
- オズの魔法使い
- スモークテスト
MVP開発の手法①プロトタイプ
プロトタイプは、いわゆる試作品を使った手法のことで、実際に製品・サービスが形になったものを開発します。例えば、携帯電話であれば通話機能のみが搭載されたものを開発するというイメージです。
ユーザーが実際に触って動く試作品を活用するため、ユーザーからよりリアルなフィードバックが得られるという特徴があります。
ただし、製品・サービスを具体的な形にするため、他の手法と比較してコストや時間がかかる点がデメリットです。
何度も仕様や方向性の転換を行うと、そのぶん必要となるコストも大きくなります。そのため、予算に余裕がない場合は他の開発手法を検討することがおすすめです。
プロトタイプの事例|Uber
出典:Uber Technologies Inc.「運転して収入を獲得、または今すぐ配車をリクエスト | Uber Japan」
配車サービスのUberは、当初iPhone所有者とドライバーをつなぐ簡易的なアプリとして開発されました。他に搭載されていた機能は、クレジットカード決済機能のみです。
ユーザーが配車リクエストを行うと、創業者に連絡が入り、創業者は「サービスを利用しようとした理由」を聞くために、GoogleMapの位置情報をもとに現地へ向かったといいます。
その結果、「その場でできる限り早くタクシーに乗りたい」というニーズがあると判断し、本格的な開発へと移りました。
プロトタイプの事例|Instagram
出典:Meta「Instagram」
現在では全世界で利用されるSNSとして人気を誇るInstagramですが、当初は位置情報アプリ「Burbn」として開発されました。
ただ、位置情報アプリとしてリリースされたものの、ユーザーの反応は悪く、想定していた人気は出なかったといいます。
そこで、創業者はBurbnのユーザーが何を求めているのか、どの機能を利用しているのかなどを調査したところ、「写真共有機能」にニーズがあることを発見しました。
その後、写真共有機能をメインとしたInstagramが開発され、ユーザーの反応をみながらコメント機能やいいね機能、ストーリーズなどのさまざまな機能が搭載されるようになったのです。
MVP開発の手法②コンシェルジュ
コンシェルジュは、提供予定の製品・サービスと同様の動きをすべて手作業で操作する手法です。例えば、翻訳サービスであれば、コンピューターではなく人間が翻訳を行います。
製品・サービスを形にする必要がないため、コストを抑えられるうえ、すべての操作を手作業で行うことから、ユーザーの反応や意見を吸い上げやすい点が特徴です。
その反面、コンシェルジュはすべての操作を手作業で行うため、大幅な人的リソースが割かれてしまうというデメリットもあります。
コンシェルジュの事例|Airbnb
出典:Airbnb, Inc.「Airbnb」
民泊サービスのAirbnbの創業者は、掲載されている写真のクオリティが低いと感じたことをきっかけに、「写真のクオリティが上がれば予約率も高まるのでは?」という仮説を立てました。
「プロによるリスティング写真撮影」というサービスを開発するにあたって、効果を検証するため、高級なカメラを借り、創業者自ら撮影に出向いたといいます。
その結果、写真のクオリティを高めた宿泊施設での予約率向上に成功し、仮説が正しかったことを確認しました。
その後、Airbnbでは「プロによるリスティング写真撮影」が実際のサービスとして提供されており、民泊サービスとしても成長し続けています。
MVP開発の手法③オズの魔法使い
オズの魔法使いは、ユーザーから見える部分を制作し、機能や処理は手作業で操作する手法です。
例えば、ホテル予約サイトであれば、ユーザーはWebサイト上で宿泊施設を予約できているようにみえても、実際は人間が裏で宿泊施設へ予約の電話やメールをしているというイメージです。
システムの一部を手作業で対応するため、開発のコストを抑えつつ、ユーザーの反応を直にみることができるという特徴があります。ただし、手作業の部分が多いほど人的リソースも必要となる点に注意が必要です。
オズの魔法使いの事例|Amazon
出典:アマゾンジャパン合同会社「アマゾン」
世界最大級のECサイトであるAmazonは、当初本のみを販売するオンライン書店からはじまりました。
本の在庫は抱えず、ユーザーが本を購入するごとに販売業者から購入し、ユーザーへ配送したといいます。
利用者が増えてくると手作業での対応が間に合わなくなることから、倉庫の購入やWebサイトへの機能の追加を行いました。
このように、Amazonは販売する商品ジャンルを1つに絞り、システムの一部を手作業で行ったことで、開発初期にかかるコストを最小限に抑えたMVP開発のよい事例です。
オズの魔法使いの事例|食べログ
出典:株式会社カカクコム「食べログ」
食べログは、当初グルメ本をもとに情報を手打ちした飲食店のデータベースでした。
ユーザーが「改善して欲しい」「こういう機能が欲しい」といった要望を送ることができる改善要望の掲示板を設置したことで、ユーザーからのフィードバックが集まってきたといいます。
食べログは掲示板に集まったフィードバックにはできる限り対応しながら、現在のような形へと改善されました。
このように、食べログはシステムの一部を手作業で行いながらフィードバックを得ることで、社内で新たな機能を開発することなくサービスを形にしていったMVP開発の成功事例です。
MVP開発の手法④スモークテスト
スモークテストは、提供予定の製品・サービスにユーザーが興味・関心を持ってくれるかどうかのみを検証する手法です。具体的には、製品・サービスを紹介する動画を見せたり、リリース前に購入や登録を募ったりします。
実際の製品・サービスやその試作品を制作する必要がないため、コストを最小限に抑えられるうえ、ユーザーニーズを確認できる点が特徴です。
スモークテストの事例|Dropbox
ファイル共有ツールであるDropboxは、リリース前にサービスを紹介する3分ほどの動画を公開するというスモークテストを実施しました。
その動画が大きな反響を呼んだことで、約5,000人だったベータテストの利用希望者が、一晩で7万5,000人にまで増加したといいます。
このように、実際の製品・サービスがない状態でも、たった3分ほどの動画さえあれば、ユーザーからどのような反応が返ってくるかを調査することは可能です。いち早くユーザーからフィードバックを得られるMVP開発の重要性を示す事例のひとつといえます。
MVP開発における2つのコツ
成功事例から分かったMVP開発における以下2つのコツについて、1つずつ詳しくみていきましょう。
- 搭載する機能は最小限にする
- ユーザーの本質的なニーズを見極める
搭載する機能は最小限にする
そもそもMVPは、「必要最小限の機能を搭載したプロダクト」という意味があります。そのため、MVPに搭載する機能は最小限にすることが大切です。
新しい製品・サービスを開発するとなると、「こういう機能もあったらよいのではないか」「機能が1つだけのサービスに需要がないのでないか」など、不安になることがあるでしょう。
ただ、MVP開発は必要最小限の機能のみを搭載し、とりあえず市場へ投入することで、ユーザーの反応をみながら改善することに意味があります。
また、はじめから多くの機能を搭載した結果、全然利用されない機能があって開発コストが無駄になったというケースも珍しくありません。
そのため、MVP開発において搭載する機能は最小限にするということを常に意識しておきましょう。
ユーザーの本質的なニーズを見極める
MVP開発で搭載する機能は最小限に抑える必要があるため、ユーザーの本質的なニーズを見極めることが大切です。
例えば、Instagramは当初位置情報アプリとしてリリースされたものの、ユーザーのニーズが「写真を共有すること」にあることを見極め、サービスの方向性を転換したことで成功を収めています。
このように、MVP開発では1度で成功できるかというより、「ユーザーが本当に求めている機能」を見極められるかが重要です。
1回目のMVP開発で想定していたニーズが違っていたら、「他のどのような機能が利用されているか」といったユーザーの反応を分析し、本質的なニーズを洗い出しましょう。
MVP開発にはノーコードツールがおすすめ
MVP開発は、短期間かつコストをかけずに開発できるかが重要となります。MVP開発で試作品といったプロダクトの開発を行う場合は、ノーコードツールの活用がおすすめです。
ノーコードツールは専門知識不要で開発できるため、IT人材の確保や育成が必要なく、社内での開発が実現します。
また、開発に際してコーディングする必要がないため、短期間での開発が可能です。実際に約1週間で開発・リリースされたサービスも存在します。
このような特徴を持つノーコードツールは、MVP開発との相性がよく、「MVP開発にコストをかけたくない」「MVP開発を社内で完結して行いたい」といった企業が導入しています。
これからMVP開発を実施する方は、ノーコードツールの活用を検討してみてください。
まとめ
MVP開発を行ったことで新規事業を成功させている事例は、すでに多く存在します。これからMVP開発を実施する場合、ゼロから方法を考えるより、成功事例からヒントを得ながら自社のMVP開発に役立てたほうが効率的です。
今回紹介したMVP開発の事例を参考に、自社でどのようなMVP開発を行えば新規事業を成功させられるかを検討してください。